本文へジャンプ
「うつ」と「ストレス」

■ 「うつ」と「ストレス」について

 

 「うつ」と聞くと誰でもストレスが原因と思うのではないでしょうか。

それでは、ストレスとは何でしょう?と、聞かれると即答できないものです。

全てのストレスが悪いのではありません。

こんなストレスの例はどうでしょうか。

結婚式に招待されて、大事なスピーチを依頼されたとします。

緊張のあまり、前夜に一睡もできない人もいるでしょう。また、反対にやりがいや意欲を感じて嬉しく思う人もいるでしょう。後者は、ストレスがポジティブな力になった例です。

この場合、「スピーチをする」がストレスで、同じストレスを「辛い」と思うか、「楽しい」と思うか、ストレスを受ける側でまったく変わってしまいます。

このことからストレスには、ポジティブとネガティブの二つの面があることがお分かりで
しょう。
おそらく、一睡も出来なかった人は人前で話すのが大の苦手で、「周りからどう思われるか」が非常に気になる性格なのでしょう。ただ、結婚式のスピーチという一つだけの原因で「うつ」になる人はいません。

 では、ストレスが原因で「うつ」にまで発展してしまうのはどうしてでしょうか。

現在、脳科学で「うつ」は、脳内のホルモン、神経細胞と神経伝達物質がうまく働かない、前頭前野の活動のアンバランスなどが原因といわれています。

しかし、ここでは専門的な理論より、もっと身近に理解していただくために「脳の働き」を
「理性」と「心」
に分けて説明します。

「理性」は、決断と行動を指令し社会や世間に対して頑張っている自分、「心」は、素直な気持ち、感情、感性、本来の自然な自分とイメージしてください。

そして、日常生活でも職場でも一生懸命働いているのは「理性の自分」です。

日々、人は「理性」が「心」を常にコントロールし情緒を安定させながら社会生活をしています。しかし、この二つはお互いに微妙なバランスを取り合っていて、案外壊れやすいのです。

 職場でも、家庭でも、友達同士でも、「成果を出さなくてはならない」「良い妻、良い夫、良い親でいなければならない」「友達と良い関係でいなければならない」等のストレスがかかると、「理性」は「心」をコントロールしようとして必死に働きます。

しかし、許容を超えたストレスが掛かりつづけると、「理性」は「心」を過剰に抑えつけてしまい、「心」は悲鳴をあげてしまいます。こうなると「理性」は「心」をコントロールすることが困難になり、「理性」は「心」に対してさらに強い抑えつけをし始めます。

それが長期間つづいたらどうでしょうか。

「理性」と「心」は疲弊して、問題を解決することも成果を達成することも出来なくなり、

ついに「心」は「理性」に対し調和を拒み、遮断状態になってしまいます。

この状態が、「うつ」です。

 

 よく、「うつ」の人は心が弱いからとか、精神が鍛えられていないからだと思われがちですが、実際にはまったくその反対で、意思や責任感が強く、常に他者へ気を配る人がなりやすいという傾向があります。

多くの場合「うつ」を発症する直前では過剰な「適応状態」であったことが報告されています。過剰な「適応状態」、世間ではその人が所属するソサエティー、或いは、コミュニティーの秩序に順応し、同じ価値観を持ち、適応していれば正常で、そうでなければ不正常とみなされることがよくあります。

皆さんも報道でご存知のことと思いますが、皇太子妃雅子様は、“皇室のしきたり”に「理性」の力で「心」を上手く合わせることが出来なくなり、心身に不調が生じてしまい、宮内庁に「適応障害」と発表されてしまいました。「うつ」と「適応障害」は同じ線上にありますが、あえて「適応障害」としたのは「うつ」という言葉の持つイメージに対する配慮ではないでしょうか。

 

 では、この病気にはどのように対処すればよいのでしょうか?

一般的に、病気になったら早く治そう、早く元気になりたい、そのために頑張ろうと思うものです。しかし、頑張ろうという気持ちが「うつ」という病気の回復を遅らせてしまうのを御存じでしょうか?「うつ」の本人が頑張ろう!と思っても、家族が頑張れ!と思っても、結果的に「うつ」を長引かせることになってしまいます。

他意のない優しさから、「また元気になったら一緒に旅行に行こうね」といった言葉かけでさえも「うつ」の人には辛い負担になってしまうことがあるのです。

そもそも「うつ」の始まりが、問題解決や成果達成のために、「理性」が「心」に対して過剰な抑えつけをしたことですから、夢や希望の言葉でも、「病気」という問題を早く解決し、
「病気を治癒させる」という成果を達成しなくてはならない、と「心」はまた抑え込まれたと捉えてしまうわけです。

 
 よく「病は気から」と言われ、体の病は頑張る気持ちで回復を助けられますが、
心の病は、その頑張る気持が病状の改善に働かないのが特徴です。

私も良かれと思って言ったことで、何度か失敗してしまった経験があります。

最近は患者さんには「鍼で治しましょう」ではなく、「鍼で癒されましょう」と話します。

「うつ」という心の病は、もう「心」の方から休養はいらないと自然に感じるまで、十分に療養することが大切です。

 
 東洋医学では、「心」と「身体」は切り離せない一つものと考えます。ですから、心を癒すには身体を癒すことがなによりも大切なのです。

また、東洋医学では、人間にとって一番大切なのは「気」です。

精神も肉体も「気」に満ちているからこそ、生命活動が円滑におこなえると考えます。

もし、この「気」のエネルギーが不足すると、精神も肉体も疲弊して病気になってしまうと考えられています。

そして、この「気」のエネルギーは、日々の暮らしの中に幸せを感じ、笑いの中から補充することができます。

ですから、むやみに将来や老後を憂いたり、今日を楽しめない生活をつづけていると、エネルギー補充ができなくなり、ストレスに対する抵抗力もなくなってしまいます。

 

 私は、解剖学者の養老孟司先生のこんな話しが気に入っています。

「ホモサピエンス誕生以来、即ち人間が知性を持って以来、人間の脳は、食べ物をいかに手に入れ、飢餓から逃れるかを考えて発達してきたわけです。

衣食住に困らないのであれば、毎日好きな音楽を聴いたり自然を感じたり、読書をしたりして過ごすのもいいじゃないか、あくせく働かなくたっていいじゃないか、だから世間で問題視されているニートだってぜんぜん悪くないじゃないか。」

ほんの少し視点を変えること、正面から見ていたことを斜めから見てみることで、見える世界が違う景色になります。

このストレス社会にあって「うつ」と向き合うには、これぐらい自由な発想や逆転の価値観をもつことも、時には必要ではないかと思います。





   ご予約は
   櫻木鍼灸治療院
   TEL:(043)423−8635
   までお気軽にご連絡ください。



                  ページの先頭へ戻る